所を捨てよ、街に出よう!
秋葉原TV〜antirom〜A NEW PERSPECTIVE
1999年2月27日〜3月14日

中沢 あき

 ほとんどの人が 知ってるだろうあの有名なタイトルを字違いで拝借したら、ちょっとダサい表題になってしまったが、まあ字の通りの意味である。「街へ、外へ」出てみて見つけたこと。まずは以下のレポートを。

 街中にテレビ、 テレビ、テレビ、テレビだらけ。一体ここには何台のテレビモニターがあるんだろう。古く煤けた建物や錆びた高架線の鉄骨と、膨大な量の電磁波を放つ家電製品の組み合わせは、考えてみれば異様な風景だ。私はそれを当たり前の景色だと思っていたけど、そういえば、どうしてなかなか妙ちきりんな空間なのだ。そうした何千何万の大小さまざまな画面には、昼のメロドラマが流れていたり、環境ビデオの風景が流れていたり、ふと気付くとそばに据え付けられたビデオカメラに撮られている自分が映っていたりもする。そんなモニターの列の中に変な画面が一つ。アップで映し出された、病院の緑色のサインボードに電気がつく。「美術中」....あ、手術じゃない、は、なるほど....。そういえば向かい側の店の液晶テレビには絶叫して走り回るカンフー男が、そこの角の店頭に積まれたテレビには、握った鉛筆の芯に互いにそっと触れつつじっと動かない足と手が映っている。
 そうして各作品の間に挟まれる「AKIHABARA TV」のCGロゴ。そうこれは、2/27〜3/14まで秋葉原電気街の商品テレビモニターによって展開されたビデオインスタレーション「秋葉原TV」である。「60年代後半にナム・ジュン・パイクによってもたらされた美術としてのマルチビジョンは既に秋葉原ではごく普通の風景と化している」とは主催側のコメント。身近過ぎて気付かなかった、商品モニターという隠れメディアを使ったパブリックアートとして提示だそうだが、こんな広い街中に分散させ、日常風景に潜り込ませているとはなんて大胆な。しかもテレビの縁によく貼られている商品ラベルがちゃっかりと「ビデオアート上映中」というシールにすり替わっているのもおかしい。

 さて、所変わってここはロンドン。 一軒の店のショーウィンドウに貼り付けられた9枚の掌大のパッドを子供が押している。するとガラスの向こう側に置かれたモニターの中のグラフィックが変化する。例えば3人の子供の絵の体の部分それぞれが、服が変わったり、顔が変わったり、骨が透けてみえたりという様に。子供だけでなく、大人も興味をひかれて足を止めていく。「外にいる人が店の中に入らなくても、1日中さわれるようにしたかったんだ」と話すのは、ロンドンのデザイン集団TOMATOと共に制作をしているマルチメディアチームantiromのメンバーである。これは彼らが仕掛けた双方向のインスタレーションなのだが、「元々アートスペースで実験的に始めたものをもっと一般的にやってみたくて街の店先に置いた」のだそうで、アートを限られた空間からどう日常生活へ滑り込ませていくか、他にも雑誌の付録CD-ROMやネット上でメディア展開を広げていく彼ららしい試みだ。「子供の頃に好きだった手品とスクリーン上で何かを見せるってことは似てるんだよね。つまり人を集めたり、驚かせたりって事でさ」「でもただ置いておくだけじゃ、人は寄ってこない。

 だから だから通行人へ声をかけるような仕掛けも作るとかしようと思ってる」そう、街に出るって事は、「あなた」とコミュニケートしたいってこと。だから待っているんじゃなく、「私」からアプローチをするってこと!なのだ。

 そして私自身が そんな手品に魅せられたお話を一つ。真夜中、青山の大通り沿いの小さなバーで開かれているパーティにお邪魔した。あるWEBデザイナーがやっているイベントの取材で行ったのだが、気の置けない仲間達が集まって飲んだり喋ったり、ターンテーブルを回したりしている中で、彼は自作の写真を適当に配置した数台のプロジェクターによって部屋の中に投影し、ある一台にはゆっくり回転するグラスを取り付け、偏光レンズのように映像を歪ませる。そしてそれらの映像の中に映る言葉「A NEW PERSPECTIVE」。気が付くとその彼自身はドアの外にいるので、後を追って外に出てみて驚いた。入ってくるときには気が付かなかったが、ドアの側にもう一台のプロジェクターが置いてあり、そこから通りを越えた数十メートル先の向かいのビルの壁に、人の姿が大きく映し出されていたのだ。さすがにピントは甘くなっていたものの、かえってそれが映像を一層幻想的にしていて、そのぼんやりとした人の姿が深夜の街に浮かび上がる様はちょっとした迫力があって美しかった。「新しい見方」とはこの事? 彼自身は「こういう見せ方をやっている人は結構いるようだし、僕はただ思いつきでやってるだけ」と軽く話していた。確かに真夜中で、しかも人目につくことも少ない場所での見せ方というのは消極的なものではあるけれど、「もし誰かが気付いてくれたらそれはうれしいし、おもしろい」と言うのは、偶然それを目にしたという秘密を共有しあうようなひそやかな楽しさがあるのかもしれない。この瞬間を共有している誰かがいる、という想像上の密かなコミュニケーション。

 「外」で展開されるアート というのは別に今に始まったことではないけれど、でももっともっと「外」に出てきてほしいと思う。「外」へ出ることで、視点が、コミュニケーションが変わる。どんな「場」を作るために、どんな「所」を選ぶのか。美術館という非日常の空間へ日常性を持ち込むような試みもあるけれど、「外へ、街へ!」そして私達の日常をも巻き込んでほしい。例えば「秋葉原TV」は、意外にも街の日常に溶け込んでいたくせにどこか位相がズレてしまっているし、そんなふうに何食わぬ顔であなたの隣りに紛れつつも、妙な空間を醸し出していたりしたら面白いと思いません?

 これから街に人があふれ出してくる季節。また街中で面白いものに出会えたら!

■関連WEBサイト
・秋葉原TV
  http://www.sfc.keio.ac.jp/~kazhiko/akitv.html/
  http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/mtp/AkihabaraTV.html
・antirom
  http://www.antirom.com/
 
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